8月 042018
 

 自民党の杉田水脈衆議院議員が、「『LGBT』支援の度が過ぎる」と題した雑誌寄稿で「LGBTは生産性がない」と暴言を吐いたというニュースが流れたとき、私は北欧の小さな国の首都にいた。

 その暴言のあまりもの酷さに、インターネットのニュース記事を読み漁り、さらには本人を批判する記事やツイート、さらには擁護する人々の発言を一通りフォローした。

 暴言の酷さ醜さは言うに及ばず、当人が何も悪びれていない様子であることや、彼女を支持する声が少なくないという事実に、いたたまれないほどの嫌悪と悲しさを感じた。

〔PHOTO〕iStock
団結する仲間の熊たち
 ところで、この小さな北の首都には、その中心に大聖堂があって、大聖堂の前には石畳の広場がある。ちょうどこの時期、あるイベントが行われていた。

 それは、世界各国のアーティストが、人間の背丈を超えるほどの熊の人形に、それぞれ自分の国を表すペイントをし、それがずらりと大聖堂前の広場に並べられているのだ。

 2002年にベルリンを皮切りに始まったこの「United Buddy Bears(ユナイテッドバディーベアーズ)」というイベントは、2005年には東京にもやって来ており、そのときは300万人を超える人出でにぎわったという。

 黒い熊もいれば、白い熊や黄色い熊、赤や青の熊もいる。2メートル近い大きさの色とりどりの熊の人形が、百体以上も手をつないで並ぶ姿は壮観だ。

 そして、その中央には水色の熊が、一体だけ独立して立っている。その体には世界各国の言葉で、「人権」と書かれている。背中には、国連の「世界人権宣言」の第1条が英語で記されている。

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すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
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〔PHOTO〕iStock
「生産性がない」と切り捨てられる恐怖
 杉田発言を聞いて以来ずっと、何か心に棘が刺さったような気分でいる。あの発言に驚き、怒りを覚えた多くの人も、大なり小なり同じような暗澹とした気持ちを抱いているだろう。

 最初私は、多くの人がそうしたように、怒りに任せて彼女と彼女の発言を批判する記事を書こうと思った。実際、これまでも私は、巷にあふれる「杉田水脈的」なさまざまな言動について、私なりの気持ちをぶつけて批判を繰り返してきた。

 それは犯罪に対してであったり、暴力やハラスメントに対してであったり、弱者に対する心ない言動についてであった。その性質や程度の違いこそあれ、「敵」はどれも人権を蹂躙(じゅうりん)するような出来事ばかりだった。

 LGBTを「生産性がない」という言葉で差別し、貶めることは、ちょうど2年前に起こった神奈川県相模原市の「津久井やまゆり園」事件の被告の思想を否が応でも想起させる。

 障害者施設の入所者19人を殺害した植松聖被告は、犯行の動機として「知的障害者は生きていても不幸なだけ」と語ったという。

 今回の杉田発言も、根は同じである。自分で決めた線引きで人間に優劣をつけて差別し、見下すという発想は、思い上がりも甚だしく、傲慢で醜悪だ。

 杉田発言に対しては、当然のことながら、多くの人が憤り、批判が噴出した。作家の乙武洋匡氏は、「次に排除されるのは『私』かもしれない」と述べ、誰もが「生産性がない」との言葉で切り捨てられることの恐怖を説いた。

 誰もみな年を取ったり、病気になったり、事故に遭ったりすると「生産性」がなくなってしまうかもしれない。それは、当の杉田議員だって同じことだ。生産性がない人に支援が不要であれば、年金や社会福祉は不要ということになる。

 一方、大阪府の松井一郎知事は、杉田議員への反論のつもりだったのか、ツイッターで「オカマにもゲイにも生産性はある」と呟き、却ってその思慮の浅さを露呈させた。公職にある人が、「オカマ」という侮蔑的な言葉をいまだに不用意に使う感覚には呆れるしかない。

 さらに「生産性がある」ことを理由に、差別の対象から外そうとする論理は、杉田議員と同一線上にある。生産性があろうがなかろうが、差別自体がいけないということの基本を理解していない。

 このように、とかく差別的な人々は、意図的であれ、無意識的にであれ、人々の間に勝手な線引きをしたり、条件をつけたがる。些細な違いを見つけては、その違いゆえに殊更に他者を差別しようとする。

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