1月 242014
 

Business Media 誠 によると。

 ソチ五輪の開幕へカウントダウンが始まった。やはり何といっても最大の注目は女子フィギュアスケート。日本代表メンバー3人の中でも特に今季限りでの現役引退を決めている浅田真央(中京大)には、銀メダルを手に悔し涙を流した前回のバンクーバー五輪のリベンジを晴らす期待がかけられている。キム・ヨナ(韓国)とのライバル対決を制して悲願の金メダルに輝き、有終の美を飾ってほしい。日本の多くの人々が、そう願っているはずだ。

 その一方で夢破れた選手もいる。安藤美姫(新横浜プリンスクラブ)だ。長年に渡って日本女子フィギュア界をけん引してきた元女王は2013年12月の全日本選手権で総合7位に終わり、代表の座を射止められずに競技生活へ別れを告げた。2006年のトリノ五輪と2010年のバンクーバー五輪に出場し、2007年と2011年には世界選手権を制覇。輝かしい経歴とともに「ミキティ」の愛称で親しまれた彼女は、最後の最後まで自分らしさを貫いた。

●突然の出産報告とソチ五輪への道

 世間を驚かせたのは、「報道ステーション」(テレビ朝日)にインタビュー出演した2013年7月1日のこと。突然、今季限りでの引退と同年4月に女児を出産していたことを明かした。2011年の世界選手権後に長くコーチを務めていたニコライ・モロゾフ氏に契約を解消されて以降、ここまで2シーズンを欠場。そのハンディがありながらもママとしてソチ五輪を目指し、17年間の競技生活のラストステージとしたい意向を同番組上で公言した。

 この安藤の重大決意を当時、一部のフィギュア関係者や日本スケート連盟関係者たちが「五輪に出るなんて可能性はゼロに近い」「どうせ満足な演技もできるわけがない」などとせせら笑った。

 心ない中傷であったが、そんな陰口を叩かれてしまうのも無理はなかった。日本のフィギュア選手で出産後も現役を続けたスケーターは、安藤以外に1人もいない。普通に考えれば「出産」と「競技生活」を短期間のうちに両立させることは極めて困難。通常、産後の女性の体が落ち着くのは6週間目と言われている。その間は産後の肥立ちが悪くなることから、本来ならば運動は控えなければならない。

 出産により筋力は衰え、骨ももろくなっている。骨盤が開くことにより体を支えるインナーマッスルも、自然と緩んでしまう。産後ケアを怠ると、骨盤が元の位置に戻らなくなって腰痛などに苦しめられる危険性が高い。「ホルモンバランスや次の生理がいつ始まるかなどの個人差はあるが、産後から通常の身体に戻るには1年ぐらいかかる」というのがスポーツ医学界有識者たちの見解である。

 しかし安藤は出産からわずか2カ月後の2013年6月にはアイスショーに出演していた。常識では考えられないような体力と、リスクを恐れない不屈の精神力で自らの競技人生を全うしようとしていたのだ。

 「もちろん身体の状態や残された時間を考えれば、ソチ五輪の代表の座を争うことが絶望的だったことぐらい、美姫ちゃんはテレ朝のインタビューに答えたときから百も承知だった。でも、このまま終わるわけにはいかなかったのです。

 前コーチのモロゾフさんと『諸々』あってからコーチ不在になり、2シーズンを不本意な形で欠場。未婚のまま出産し、フェードアウトするシナリオなんて彼女の性格から考えれば絶対にできるわけがない。そこには、やはり世界選手権で2度優勝した元女王のプライドもある。自分が置かれた立場を理解し、幕の引き方について熟考して答えを出したのです」(安藤に近い関係者)

 そして何より前途の「五輪も、満足な演技も、どうせ無理」などといった周囲からの厳しい声も、彼女の負けず嫌いの闘争心に火をつけていた。前出の関係者は補足する。

 「美姫ちゃんはもともと出産と五輪挑戦を口にすることで世間に『女性の強さ』もテーマとして訴えたかったのです。テレ朝のインタビューに答えた後、周囲に『仮に五輪に行けなかったとしても、何もやらないまま終わるよりは数千倍もいい。私の挑戦が世の中の女性の人たちに勇気を与えることができれば、うれしい』と漏らしていましたからね。そういう明確な方向性と強い意志を持っていたから、バッシングも糧にすることができたのです」

●スケート連盟内部に残る安藤への嫌悪感

 それでも安藤に対する嫌悪感は、彼女が引退した今も日本スケート連盟内部に根強く残っているようだ。理由はどうあれ安藤は2シーズンにわたって公式戦に出場せず、同連盟側から強化指定選手の打診があっても辞退し続けていたのは事実。それが突然テレビ番組の中で未婚による出産を明らかにして世間は大騒ぎとなったことで「浅田とフィギュア界を引っ張ってきた主役にしては余りにも行動が奔放(ほんぽう)過ぎる」と眉をひそめた同連盟幹部は1人や2人ではない。

 引退後のプランについて「今後は指導者を目指す」と言う安藤にとって、こうした同連盟幹部たちのアレルギーは今後の道のりへの足かせとはならないのか。コーチになって教え子を育てたとしても「あの安藤の愛弟子」というレッテルを貼って毛嫌いする幹部が、また現れるかもしれない。そんな心配をしてしまうぐらいに同連盟にはカタブツな関係者たちが多いのである。

 日本国内でコーチとして再出発することになっても、イバラの道を歩まなければならなくなる可能性は高い。だが、そんな中で安藤に秋波(しゅうは)を送っている国がある。それは何と、韓国――。複数の韓国スケート連盟幹部が「もし安藤が日本で息苦しさを感じるならば韓国でフィギュアのコーチに就任し、後進育成に力を貸してほしい」と同国でのコーチ就任を熱望しているというのだ。

 韓国と日本の関係は今、竹島の領土問題をめぐって過去最悪と言われるほどに冷え込んでいる。しかも韓国女子フィギュアのトップ、キム・ヨナと日本の浅田真央はライバル同士。こうした背景から韓国スケート連盟の関係者の中にも日本人を毛嫌いする人物は数多い。

 ところが「安藤だけは別」なのだという。これは一体どういうことなのか。アマチュアスポーツ界の事情に精通し、韓国スケート連盟とも昵懇(じっこん)の関係にあるA氏がこう明かした。

 「これまでも安藤はプライベートで韓国を何度か訪れたり、キム・ヨナを『素晴らしく、尊敬すべきスケーター』と持ち上げる発言を繰り返したりしていた。安藤から見てヨナは年下。儒教文化の韓国では『年長者を敬う』のが常識と言われているが、年下のヨナに尊敬の念を持ち続けていた安藤の姿勢は『彼女こそ真の日本人だ』などと韓国国内のフィギュア関係者やファンの間で賞賛されている。浅田と違って安藤にはとても好意的な目を向けているのは、それが理由だ」

 それにしても日本ではなく韓国でコーチ就任となれば、やはり抵抗はあるだろう。ましてや昨今の日韓関係は非常にナーバスな状態にあるだけに、仮に韓国フィギュア界からのラブコールを受け入れれば大きな波紋を呼ぶのは必至だ。

●中国シンクロチームを強豪に育てた日本人コーチ

 しかし、こうしたケースはスポーツ界で前例がないわけではない。例えば、シンクロナイズドスイミングの名指導者、井村雅代氏だ。

 彼女は日本選手権制覇やミュンヘン五輪出場など輝かしい経歴を生かし、現役引退後に中学教諭を経てコーチへ転身。1978年から日本代表チームのコーチとしてスパルタ指導で名選手を次々に育成し「日本シンクロ界の母」と呼ばれたが、2004年のアテネ五輪終了後に代表コーチを退任した。そして後に選んだ道が、かねてからオファーを受けていた中国代表チームのコーチ就任だったのである。

 ライバル国のコーチに身を転じたことで井村氏は日本国内から「売国奴」などと猛烈なバッシングを浴びながらも中国のシンクロ選手たちの育成にまい進し、2008年の北京、2012年のロンドン五輪でのメダル獲得に大きく貢献した。2013年5月からは英国代表のコーチとして現地で辣腕(らつわん)を振るっている。

 かつて井村氏は「他国の代表チームスタッフとして結果を残せば、日本のコーチの力量も世界で大きく評価されることにつながる」と述べていたが、他国で指導を続ける理由はそれだけではないようだ。

 「井村さんが日本の代表チームから離れたのは、日本水泳連盟のシンクロ委員長との確執が大きな要因。歯に衣着せぬ言動でカタブツな連盟幹部たちからニラまれ、嫌気が差した。そういう意味では、いま水面下で韓国からラブコールを受けている安藤も当時の井村さんと境遇が似ている」(前出のA氏)

 安藤には長らく自分を応援してくれたファンには感謝の念を抱いている半面、日本のフィギュア界には閉塞感を覚えているフシもある。同じような思いで海外に目を向けるスポーツ選手、そしてビジネスパーソンも多いだろう。引退してもミキティの今後には各方面から注目が集まりそうだ。もしかして2013年7月のように、またアッと驚くことを表明するかもしれない。

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